西垣通

東京大学名誉教授

プロフィール

1948年、東京に生まれる。東京大学工学部卒業。工学博士(東京大学)。東京大学名誉教授。
日立製作所主任研究員、米国スタンフォード大学客員研究員、明治大学教授、東京大学社会科学研究所教授、東京大学大学院情報学環教授、東京経済大学教授を歴任。
専攻は情報学、メディア論であり、とくに基礎情報学(Fundamental Informatics)の提唱者として知られる。関連して小説も執筆している。
著書として、『超デジタル世界』『ウェブ社会をどう生きるか』『コズミック・マインド』『デジタル・ナルシス』(いずれも岩波書店)、『ビッグデータと人工知能』『集合知とは何か』(いずれも中央公論新社)、
『AI原論』『アメリカの階梯』『1492年のマリア』(いずれも講談社)、『新基礎情報学』『続基礎情報学』『基礎情報学』(いずれもNTT出版)、ほか多数。

講義一覧


生命情報・社会情報・機械情報と本居宣長「もののあはれ」

ChatGPT~AIと人間の未来(8)シンギュラリティと「もののあはれ」

AIに関する議論では、シンギュラリティのような悲観論も多い。未来が暗くならないために必要なことは何か。重要なのは、アメリカ的な考え方をそのまま受け入れるのではなく、日本の伝統と文化を尊重した日本ならではのAIとの関わりを考案することだ。たとえば、情報には「生命情報」「社会情報」「機械情報」の3つがあるというが、この「生命情報」は本居宣長が説いた「もののあはれ」論と通底するところがあるのではないか。子どもやお年よりも安心できる安全なデジタル社会を作っていくために、今、求められている視点が語られる。(全8話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)


サイバネティック・パラダイムと仏教…「空-縁起」の共鳴

ChatGPT~AIと人間の未来(7)大乗仏教とコンピュータ

多元的な価値観に基づくポストモダニズムは、実は日本人が古くから親しんできた大乗仏教の「空-縁起」の考え方にも通じる。デジタルやコンピュータを考える場合、「コンピューティング・パラダイム」と「サイバネティック・パラダイム」という2つの考え方があるが、「サイバネティック・パラダイム」では、大乗仏教に触発された議論が展開されているのだ。第7話では、それぞれについて、わかりやすく解説するとともに、なぜ、この両方を組み合わせていくことが重要で、なぜ日本人の心にも根差した大乗仏教的な視点を持つことが必要かが語られる。(全8話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)


「ネット集合知」に対する性善説を覆したQアノン的現実

ChatGPT~AIと人間の未来(6)「ネット集合知」の理想と現実

インターネットの創成期は、性善説的な「ネット集合知」に対する楽観主義に満ちていた。「皆で意見をあわせていくと、かなり正確な答えが出てくる」という理論もあり、インターネットの集合知が社会を良くしていくと考えられたのだ。しかし、近年その期待は裏切られている。アメリカでは社会的分断が深刻化する中で、Qアノン運動も盛んになった。それも大きな一因となって、連邦議会議事堂の襲撃という事件まで起きてしまった。Qアノンは、日本で先行していた匿名掲示板から生まれた。日本でも、匿名文化とも相まって、ネットでの他者攻撃が増大しつつある。インターネットの未来はどこへ向かうのか。今、私たちはその岐路に立たされている。(全8話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)


ポストモダニズムとコンピュータ…相対主義とデータ科学

ChatGPT~AIと人間の未来(5)コンピュータと哲学の連関

コンピュータの発達の歩みは哲学と関連してきた。たとえば、1960年代に、それまでのマルクス主義やサルトルなど、近代主義(モダニズム)をベースとした哲学ではなく、レヴィ=ストロースらの「構造主義」「ポストモダニズム」の議論が興隆してくる。相対的な価値観に基づくポストモダニズムは、「近代化による人類の進歩」という科学の理念に疑問を投げかけた。その一方で、相対主義では物事が動かないという部分もあって、「データやエビデンスは、何らかの実用的な客観性を持っているだろう」とする実用的なデータ科学も人気を博するようになる。そのような流れを、どう考えるべきだろうか。(全8話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)


AIはヒット商品を予測できるか…人間の真の創造性とは?

ChatGPT~AIと人間の未来(4)AIは未来を読めるか

AIはヒット商品を予測できるのだろうか。これは論争的な問いだが、ヒット作品に一定の傾向はあるだろうから、「そこそこのもの」はできる可能性がある。だが、AIに丸投げしてしまったら、人間の芸術は破壊されてしまうのではないか。一神教的な客観世界観に立脚した場合、「世界はあらかじめ神により創造されていて、人間はそれを解釈するだけ」と考えるので、スピードが速いAIが有利という考え方もありうる。だが、人を本当に心から感動させる芸術の創造性は、常に生成変化する世界の中から生まれてくるのではないか。それが登場する前と後とで、局面がガラリと変わってしまうような斬新な芸術を、本当にAIがつくれるか。ここは、自らの世界観が問われる部分でもある。(全8話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)


統計とパターン認識と深層学習…論理主義だったAIの変容

ChatGPT~AIと人間の未来(3)第3次AIブームの特徴

第2話で見てきたように、AIは「身体的経験」や「母語」を持たないので、理解を間違えてしまいかねない部分が、どうしてもある。だが人間は、そんなAIを「賢い」と思ってしまう。それはなぜなのか。西垣氏は、「コンピュータやAIが、もともと論理主義と深い関係にあったことが大きい」という。だがそれは、実は過去の話なのである。これまでにAIブームは3回起こっている。1950年代の第1次AIブームでは「論理に基づく」ことが重んじられ、1980年代の第2次ブームでは「知識を集めて正しい答えを導き出す」ことが重んじられた。だが、2010年代半ばからの第3次AIブームは「パターン認識と深層学習」を特徴とする。以前とは異なり、1か0かではない多様な判断が可能になったが、それゆえAIでも間違えることが起きてしまう。そのことを、どう考えるべきか。(全8話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)


アウシュヴィッツの悲劇をAIは理解できるか…母語の有無

ChatGPT~AIと人間の未来(2)AIは意味を理解しているのか

第2話では、「AIが意味を理解しているのかどうか」を、深掘りしていく。そもそも「意味」とは何だろうか。AI研究者からは、「AIはそれなりに意味分析も行なっている」という声も挙がる。しかし西垣氏は、人間とAIとでは、言語の学び方も全然違うと指摘する。人間はまず、乳幼児期からの身体的経験に基づいて「母語(=第一言語)」を習得していく。言葉の意味を想像する力は、「生きてきた母語の世界」と深く結びついている。一方、青少年期以降に「第二言語」を学ぶときは、ある意味で機械的・形式的に学習していく。それでも、「母語」の世界と結びつけながら、意味を理解していく。だがAIは、機械的・形式的に言葉を学びながら、それを結びつける「母語」を持たない。身体的経験がないからだ。そのことが、いかなる違いや悲劇を生んでしまうのか。(全8話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)


ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは

ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか

オープンAI(マイクロソフト)の「ChatGPT」やグーグルの「Bard」は、“対話型の生成AI”と呼ばれ、私たちの質問に対して分かりやすい文章で答えてくれる。一見すると、ChatGPTも「考えて」答えを返してきているように見える。しかし、西垣通氏は、「ChatGPTは考えているとはいえない」と指摘する。普通、人間が考えるときには「意味に基づいて考える」が、ChatGPTの技術を支えるのは「パターン認識」なのである。大量のパターンを統計的に処理して、いかにも自然な文章を出力する。そのため、よくある一般的な質問にはうまく答えられるが、データが不足している個人的な質問にはなかなか答えが出てこない。それはなぜなのか。鍵となるのは「身体的経験」である。(全8話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)