釘貫亨

名古屋大学名誉教授

プロフィール

1954年和歌山県生まれ。1982年、東北大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。1997年名古屋大学にて博士(文学)学位取得。1982年富山大学講師、1987年同大学助教授、1993年名古屋大学文学部助教授を経て、1997年に同大学大学院文学研究科教授。2020年に定年退職、名古屋大学名誉教授。専攻は日本語学。

著書に『古代日本語の形態変化』(和泉書院、1996年)、『近世仮名遣い論の研究――五十音図と古代日本語音声の発見』(名古屋大学出版会、2007年)、『「国語学」の形成と水脈』(ひつじ書房、2013年)、『動詞派生と転成から見た古代日本語』(和泉書院、2019年)『日本語の発音はどう変わってきたか 「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、音声史の旅』(中央公論新社、2023年)など。

講義一覧


平安文学の危機と藤原定家による「漢字仮名交じり」の試み

文明語としての日本語の登場(6)鎌倉ルネサンス

公家から武家の世へと政権や人心が移る頃、乱れる日本語を通して公家文化の再復興につとめたのが、藤原定家である。釘貫氏が「鎌倉ルネサンス」と呼ぶ彼の活動は「定家仮名遣い」を産み、さらに写本のかたちで定着させていった。現代われわれが接する平安文学もまた、その影響を帯びたものだといえよう(全6話中第6話)。


日本人はいつから「漢字仮名交じり」を使うようになったか

文明語としての日本語の登場(5)仮名文字と文芸の成立

10世紀から11世紀に生まれた王朝文芸は、日本が世界に誇る文化遺産である。ここでは紫式部、清少納言、紀貫之などが筆をふるった文章が「平仮名」のみを用いた点に注目したい。当時の発音は仮名と結びついていたため、平仮名の文章を読むことに不便はなかったが、やがて音韻が次の変化を促すようになる(全6話中第5話)。


万葉仮名から平仮名へ…「いろは歌」が示す日本語の変化

文明語としての日本語の登場(4)平安時代語と文芸の登場

平安時代に入ると、日本語の母音は八つから五つに減り、各種の音便ができる。単語は長く、発音はルーズになっていくのだ。文字の歴史は万葉仮名から平仮名と片仮名が生まれる画期的な時期を迎え、「いろは歌」が成立して手習い歌として親しまれる。こうした変化がやがて王朝文芸を支えていくのである(全6話中第4話)。


母音は8つ?『古事記』偽書説?…古代日本語をめぐる発見

文明語としての日本語の登場(3)奈良時代の日本語の特徴

カールグレンや有坂秀世の研究が明らかにした奈良時代語の特徴は大きく二つある。一つは「ハヒフヘホ」が「パピプペポ」と発音されていたこと。もう一つは母音が8種類あったことである。これらは明治期に「上代特殊仮名遣い」と命名され、写本の信頼性を見分けるのにも役立っている(全6話中第3話)。


古代日本語の発音はなぜわかるのか…ヒントは中国の唐詩

文明語としての日本語の登場(2)文字社会の成立―漢字と発音―

日本で奈良時代に文字が使われるようになったのは、律令国家の成立が社会的急務だったからである。戸籍や税務など、公文書は文字によって成り立ち、国家社会の秩序維持は文字に依拠している。では当時の発音はいかにすれば復元できるのか。万葉仮名の発音には、「唐代詩」という強い味方がついていた(全6話中第2話)。


「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元

日本語の発音は、漢字到来以来一千年の歴史を通してどう変わってきたのか。また、なぜ日本語は「文明語」として世界に名だたる存在といえるのか。二つの疑問を解き明かす日本語学者として釘貫亨氏をお招きした。1回目は古代日本語を研究し、復元する資料として有用な万葉仮名の誕生と変遷を追っていく(全6話中第1話)。