講義一覧
勢いと余白(11)作品を味わう…一直線
「一直線」もコシノ芸術の典型の一つである。暗黒の中を1本の「金」が垂直に流れている。これは、宇宙の生命エネルギーの「垂直軸」の流れを表している。この作品をコシノジュンコ氏は、那智の滝を「日本の一番の象徴」と言ったアンドレ・マルローの気持ちで描いたという。執行はこの作品を最初に見たときに国宝「那智瀧図」を抽象化したものと思ったが、コシノ氏にもそうした思いがあったのだ。「那智瀧図」の魂を、将来に向けた抽象画として描けるのがコシノ氏であり、だからコシノ芸術は「未来の芸術」なのである。(全11話中第11話)
勢いと余白(10)作品を味わう…影の構成Ⅱ
コシノジュンコ氏の作品「影の構成Ⅱ」を鑑賞する。この作品は、「重さ」の中にある「自由さ」を感じる作品である。黒と白のバランスが絶妙だが、コシノ氏は陰と陽の「太極」のあり方を意識しているという。常に二つで、一つで埋め尽くすと、つまらない。足し算があれば引き算があるように、二つを一つとしてバランスが取れていくのである。また、戸嶋靖昌が「優れた芸術とは欠片でも優れている」という言葉を残したが、「影の構成Ⅱ」も側面の一部だけを切り取っても、一つの芸術作品になっている。(全11話中第10話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(9)生命的自由、運命、逆遠近法
生命は表現しようとすると、嫌味になる。だからそれを表現するのは難しい。だが、コシノ芸術はそれが本当に綺麗に表わされている。コシノ芸術とは、人間賛歌であり、生命的自由の賛歌なのである。そのコシノ芸術の特長は、コシノ氏の家系の中に脈々とある、「人間の生命の自由」を本当に求めるあり方に基づくものであろう。コシノジュンコ氏にとって、ファッションは「運命」であった。その流れに逆らわないことで、スーッと人生がうまくいったという。そして、コシノ芸術の最大の魅力の1つは、「逆遠近法」である。コシノ氏の強い「目力」が、絵の中に生命力として入っているのだ。(全11話中第9話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(8)余白をどのようにデザインするか
コシノジュンコ氏は、自分がもっと描こうと思っても、本能的に手が動かなくなるという。優れた芸術はみな「足りない」「未完」の部分がある。そうした作品にするには一歩引いて見る視点が大事である。そしてそこには、いい塩梅(あんばい)とも言うべき、事前の計算があるべきである。そこから、「余白の美」が生まれてくる。縄文時代の遺跡も余白の美である。文学でも、人の心を揺さぶるほどに感動させる文学作品も、未完であることが多い。(全11話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(7)見えないところで整える
「見えないところで本当にきちんと整えるのが『日本の感性』」だとコシノジュンコ氏は語る。それは「おもてなし」もそうだし、美空ひばりが日々の暮らしからステージまで、一貫して努力していたのもそこだった。昔の日本女性はみんなそうで、「無欲」で見た目はおとなしいが、国や世間を気にしない強さがあった。そうした人たちの積み上げの中でコシノ芸術も生まれている。コシノ芸術の「勢い」はそのようなものの堆積、重力から生まれているのである。(全11話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(6)単純なものこそ感動する
コシノジュンコ氏は自分が女性であることも、あまり意識しないという。意識するのは仕事や時代など、見えるものだけである。コシノ氏の著書『56の大丈夫』の核心も、「人のために喜んでもらう」ことだという。「自分が好かれたい」ではなく「相手にどうしてあげるか」ということでもある。そして、今、目の前にあることを楽しんで大切にすることが人生の成功だという。また、人は単純なものこそ感動する。その精神は、おもてなしにもつながると、美空ひばりのエピソードを紹介しつつ語る。(全11話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(5)肉体にも年齢にも囚われない
コシノジュンコ氏はブロードウェイミュージカル『Pacific Overtures』の100着以上ある衣装のすべてを3日でデザインした。これは、江戸時代から、明治、さらに現代にまでわたる衣装のデザインだった。映画『火の鳥』の衣装デザインをしたときも、見えない古代と未来と、宇宙がつながっていると感じた。そもそもコシノ氏は「年齢なんて、なくていい」「年齢をなくしたら面白い」という。そう考えれば子どももみんな個性的に見え、むしろ子どものほうが自由であることがわかるというのである。これも岸和田に息づく「スサノオ」の精神かもしれない。最も身近なものを血肉にした人が、世界に通用する人になるのである。(全11話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(4)エネルギーの根源とは
「書」は勢いで書けるが、油絵具やアクリル絵具は、勢いで描けるように作られていない。だが、コシノジュンコ氏の絵には、書と同じ勢いがある。それは、なぜなのだろうか。また、コシノジュンコ氏は何でも面白がり、やりだすとやめられないというが、それはまさに、コシノ氏の母と同じである。コシノ氏の母は「やればできる」という信念を持っていた。そして人が好きで、誰からも好かれていた。エネルギーの元は、「人のためにいろいろやってあげる」ところにあった。母がモデルになった朝ドラ『カーネーション』というタイトルは、まことにピッタリな命名であったことも分かる。(全11話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(3)マグマのようなエネルギー
子どもの頃からだんじりを曳いていたコシノジュンコ氏は、絵も「勢い」で描く。だんじりは「一気」「団結」が重要だが、それと同じで、迷うとおかしくなってしまうからである。また三姉妹で競走しながら育ったため、自分の個性を大事にしてきた。三姉妹はよく「似ている」と言われるが、共通点は「親が一緒」という以外ない。ただ母親は三姉妹に「どの指切っても痛いねん」と言ってくれた。そんななかで育ったコシノ氏は、絵は「頭」で描いているのではないという。(全11話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(2)岸和田と「だんじり精神」
コシノ家の女性は、母も三姉妹も、全員「服の持つ力で世の中に貢献する」という信念を持っていた。コシノ氏の母をモデルにした朝ドラ『カーネーション』から、そのことが濃厚に伝わってくる。そしてこれは、岸和田のど真ん中で育った人たちが持つ、だんじり精神でもある。お祭の歴史のある町の「ど真ん中」で育つ幸せが、そこにはある。日本人はお祭りがあるから団結でき、いざとなれば強い。なかでもだんじり祭りは、日本人が持つ良さが全部出ている祭りだといえる。(全11話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
勢いと余白(1)映画『火の鳥』の衣装
コシノジュンコ氏の芸術の秘密に、執行草舟が迫る対談。コシノジュンコ氏の作品には、原始の力と、原始からそのまま出てくる生命力があると執行は語る。はたして、どのようなことか。そもそも、執行草舟がコシノ氏を知ったのは、手塚治虫原作の映画『火の鳥』でコシノ氏がつくった「衣装」の力を感じたことに始まる。以来、コシノ作品を見るようになり、コシノジュンコ氏の描いた絵画も集めるようになった。コシノ氏は映画『火の鳥』の衣装を「超過去は超未来と一緒」と考えてデザインしたという。この衣装は、神話や古代史の真実を理解させるほどの力を持っていた。(全11話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)